相続財産の評価
遺産分割において相続財産の評価が争われる場合があります。不動産などの財産をいつの時点を基準に、どのように評価するかは、法律上明確に定められているわけではありません。
相続税の税務申告においては、財産評価基本通達という国税庁の定めた基準がありますが、遺産分割における基準と完全に一致するわけではありません。
この基本通達による計算の妥当性が争いになることもあります。
以下では、主要な財産について、その評価方法や遺産分割と税務申告における違いなどを簡単に説明致します。
基本的に、遺産分割においては、遺産分割時の時価を基準とすることが多く、一方で、税務申告においては相続開始時の時価を基準とします。
なお、以下は、基本的な事案を前提にしており、実際の事案内容によっては例外があり、以下の基準で計算されない場合もあります。
土地の評価
◆遺産分割:遺産分割時の時価(取引価格)※ただし、合意があれば公示価格、路線価、固定資産評価額などによることも可能。
◆税務申告:相続開始時の時価(路線価評価)
※公示価格(時価に近いが、標準地の時価のみ)
※路線価(時価より低い)
※固定資産評価額(時価より相当低い)
借地権の負担付き土地の評価
※土地を第三者に貸している場合の土地(底地)の評価
◆更地価格から借地権割合を控除した金額
借地権の評価
◆借地の更地価格に借地権割合を乗じた金額
建物の評価
◆時価(原価法、収益還元法などによって評価)
◆住居などは固定資産税評価額
※遺産分割において、相続人などが居住している住居は、固定資産税評価額で評価することが多い。
※税務申告では、自用の建物は相続開始時の固定資産税評価額で評価される。
株式
◆遺産分割:時価(時価額は鑑定によることもある)
※動産については、貴金属や古美術品などの価値の高いものが対象となる。
※株式のうち非上場株式の評価には、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチなど様々な手法がある。
◆税務申告:取引相場のない株式の場合会社の規模によって異なる。
大会社は原則、類似業種比準方式で評価。
小会社は原則、純資産価額方式で評価。
※同族株主以外の株主が取得した株式については、配当還元方式で評価。
(いずれも令和2年時点)
※上場株式の場合は、相続開始時の価格や開始月の平均額のうち最も低い金額による。
知的財産権
※著作権、特許権、実用新案権、意匠権などの知的財産権
◆遺産分割:時価
※株式の評価のように、コスト法、インカム法、マーケット法などによる評価手法がある。
※コスト法(確立のための費用や購入費用を基準に考える)
※インカム法(将来収益を基準に考える)
※マーケット法(類似取引などを基準に考える)
◆相続税評価:著作権=年平均印税収入額×0.5×評価倍率などで計算。
医療法人の出資持分
◆相続税評価では、その規模によって、類似業種比準価額方式あるいは純資産価額方式などによって評価される。
※持分なしの医療法人へ移行する措置を取ることで、相続税や贈与税等の支払いを免除される場合がある。
◆遺産分割においては、出資持分の評価方法が問題になる。
※なお、最高裁第一小法廷平成22年 4月 8日判決、平20(受)1809号事件、民集 64巻3号609頁は、医療法人の定款に当該法人の解散時にはその残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定がある場合において、同定款中の退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる旨の規定は、出資した社員は、退社時に、当該法人に対し、同時点における当該法人の財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができると判断している。