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相続法改正

以下では、相続法改正の要点を説明致します。

0 はじめに

 改正された相続法が令和元年7月1日から施行されている。
 原則:平成31年(2019年)7月1日(附則1条本文)
 例外:自筆証書遺言の方式緩和
      2019年1月13日(附則1条2号)
    配偶者居住権及び配偶者短期居住権
      2020年4月1日(附則1条4号)
    法務局における自筆証書遺言の保管
      2020年7月10日



1 配偶者居住権(民法1037〜1041条)

 配偶者の無償居住権を、保護する制度を規定。
◆配偶者居住権 
 配偶者居住権が成立要件(1028条1項)は、@配偶者が、相続開始前からその建物で生活していたこと、A建物が被相続人の所有あるいは配偶者との共有であること、B配偶者に居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈等がなされたこと。
 生活の本拠として使用していた建物について認められる。「配偶者」には、内縁の配偶者は含まれない。
 存続期間は原則、終身となる(1030条)。遺産分割協議や遺言、審判において期間を定めることはできるが、延長や更新はできない。
 この居住権を譲渡することは禁止されている(1032条2項)。また、第三者に賃貸することや無断増改築も禁止されている(同3項)。そのため、他の住居等に移る必要などが生じた場合でも、配偶者居住権を売却することや、建物を賃貸することなどはできない。
 配偶者居住権を取得することによって相続財産の取り分が減る可能性もあり、配偶者居住権を取得することによる得られる価値は、将来の事情変更の可能性も含めて慎重に検討しなければならない。
 存続期間満了前に配偶者居住権が必要なくなる可能性を考慮して、あらかじめ、居住権の価値について清算が求められるように合意しておくことも検討すべきである。
 配偶者の死亡などによって配偶者居住権は消滅する。居住建物の返還義務や原状回復義務は、死亡した配偶者の相続人に相続される。
 配偶者居住権の取得は、特別受益となる。

◆配偶者短期居住権
 相続開始前に、建物に無償で居住していた配偶者が、相続開始後も、一定期間、無償で居住ができる制度。
 <配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合>

 遺産分割により居住建物の帰属が確定した日、相続開始時から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで。
  <配偶者以外の者に遺贈等がされた場合>
 居住建物の取得者が配偶者に申入れをした日から6か月経過した日

 
 配偶者に対する持ち戻し規定の不適用(民法903条4項)
 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、配偶者に居住用不動産を贈与・遺贈した場合、持ち戻し規定を適用しない意思を表示したと推定する。
 
※たとえば、相続人が配偶者と子ども1人の場合
  相続開始時の相続財産 現金3000万円のみ
  居住用不動産の価格    1000万円
 持ち戻し規定の適用があるかどうによって、法定相続分に応じた現金の取り分は以下のような結果となる。
  適用あり  適用なし 
 配偶者 1000万円  1500万円 
 子ども 2000万円 1500万円 
 
3 遺産分割協議前の預貯金の払い戻し(民法909条の2)
 葬儀費用、生活費などのために、各相続人は、遺産分割協議が終了前でも、預貯金を単独で払い戻しできる。
 ※上限額あり
  相続開始時の預貯金総額×3分の1×法定相続分
  (各金融機関ごとの上限150万円(令和2年時点の法務省令)) 

4 家事事件手続法の保全処分の要件緩和(同法200条3項)
 遺産分割調停・審判の本案が家裁に係属しており、必要性、相当性がある場合に、預貯金債権を仮に取得できる(仮の払い戻しが受けられる)。
 必要性は、債務の弁済や生活費の支払いなどのために払い戻しを認める必要があるか裁判所の裁量で判断される。
 相当性は、他の共同相続人の利益を害しないかどうかの判断で、遺産の総額や特別受益の主張などが考慮される。法定相続分の範囲を超えて認められる可能性は低い。

5 遺産分割前の財産処分(906条の2)
 遺産分割前に遺産に属する特定の財産を共同相続人が処分した場合に、遺産分割調停の中で、その調整をするための規定が設けられた。
 具体的には、共同相続人全員の同意によって、処分された財産が遺産の分割時に存在するものとみなすことができる(906条の2第1項)。
 また、共同相続人の1人または数人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合には、当該共同相続人の同意を得ることを要しない(906条の2第2項)。
 たとえば、共同相続人の1人(Aさん)が、預金を払い戻したことは認めるが、それは被相続人の債務の支払いに充てたと主張した場合、「共同相続人の1人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合」にあたるため、共同相続人全員の同意がなくても、払い戻された預金額は、相続財産に含まれすでにAさんが取得したものとして扱われる。
 他の共同相続人が、債務の支払いに充てたというAさんの主張を争っている場合は、Aさんは、他の共同相続人に対して、債務を弁済したことによって他の相続人が得た利益について、不当利得返還請求訴訟等提起しなければならなくなる。
 一方で、Aさんが、預金の払い戻しをしたこと自体を否定した場合は、他の共同相続人は、遺産の範囲確認訴訟などを提起する必要がある。この訴訟では、
 @処分された財産が相続開始時に遺産に属していたこと
 AAさんが処分したこと
 B他の共同相続人は遺産分割の対象に含めることに同意していること
 などを主張立証する必要がある。
 なお、このような訴訟が提起された場合でも、遺産分割調停が停止するわけではない。遺産分割調停を取り下げるか、訴訟の対象となった財産の除いた部分のみ分割調停を進め、その後再度調停を申し立てるなどが必要になる。
 
 以上は、相続開始後に処分された財産がある場合の手続きである。相続開始前に処分された財産がある場合は、従前と同様に、調停ではなく、訴訟を提起して解決する必要がある。

6 遺産の一部分割(907条)
 実務上認められていた一部分割について、明文の規定が設けられた。
 具体的には、一部分割を可能と規定し、「遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合」には認められないとした。
 実際には、一部分割によって、遺産全体の適正な分割ができなくなるおそれがある場合には、申立は却下される。
 申立書には、分割対象を明示する必要がある。たとえば、遺産分割目録中の〇〇の遺産の分割を求める、など。申立に対する判断のために、遺産全体の情報が必要になるため、遺産目録には、全ての遺産を記載する。

7 特別の寄与(1050条、家事事件手続法216条の2〜5、別表2の15)
 相続人でない者が、被相続人の療養看護に努めた場合などに、相続人に対して、金銭の支払いを請求できる制度が規定された。
 請求者は、相続人の配偶者、六親等内の血族、三親等内の姻族である。相続開始前に離婚した相続人の元配偶者含まれない。
 無償で療養看護や労務の提供をした場合に請求が可能である。労務の提供とは被相続人が営んでいた事業に従事していた場合などである。
 療養看護などによって、財産の維持または増加があり、それが特別の寄与といえることが必要になる。
 話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所において、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、その金額が定められる。
 なお、従来の寄与分の算定においては、療養看護型の場合、要介護度2以上の状態において、介護報酬相当額に療養看護日数を掛けた金額をベースに一定割合の増減を行う方法で計算されることが多い。 
 この請求には期限があり、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六か月を経過したとき、または相続開始の時から1年を経過したときは、審判申立は却下される。

8 遺言制度の見直し
◆法務局による自筆証書遺言の保管制度(法務局における遺言書保管法)の創設
 自筆証書遺言を法務局に保管してもらうことができるようになった。
 遺言書保管申請の手数料は1件3900円(令和2年時点)。
 相続人は、全国どこの遺言書保管所でも、遺言書の内容を確認できる。
 遺言書が発見された場合、裁判所での検認手続きが必要になるが、この制度をりようした場合、検認は不要となる。

◆遺言執行者の権限が明確化
 概ね従来の実務上の運用を明確にした規定が設けられました。たとえば、任務開始後の相続人に対する通知(民法1007条2項)、特定財産承継遺言(特定の相続人に特定の財産を相続させる遺言)を実現するための権限明確化(民法1014条2項)などです。
 
◆自筆証書遺言の作成の容易化
 財産目録(遺産の一覧表)について、ワープロ打ちしたものに署名押印をしたものを、自筆証書遺言に添付することが可能になった。
 自筆証書遺言は、全文手書きしなければならい。同じ用紙に、手紙の部分とワープロ打ちの財産目録部分がある場合は、財産目録を「添付」したことにならず、自筆証書遺言本文の全文手書きの原則にも反する可能性がある。

9 遺留分制度の見直し
 遺留分減殺請求権の行使によって生じる権利を金銭債権とした。遺留分を侵害された者は、受遺者・受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができると規定された(民法1046条1項)。
 ※遺留分侵害額の請求権は、相続及び侵害の事実を知った時から1年、相続開始の時から10年で時効消滅する。
 裁判所は、受遺者・遺贈者から請求があると、遺留分権利者に対する金銭の支払いについて相当な期限を与えることができることになった(民法1047条5項)。

相続・遺言 法律相談

弁護士馬場伸城
弁護士 馬場伸城
第一東京弁護士会所属
日本建築学会正会員
日本障害法学会正会員

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